ミドさんのブログ

日頃思いつくことを書いてます

世界おもしろ昔のはなし㉑

 世界各国での出張・駐在体験を通して、色々な面白い話を提供してきたが、海外生活の最後となったフィリピンでの駐在体験について述べている。堅い話ばかりまだまだあるが、それではあまりに恐縮すぎるので、あと数回後には、一旦、普段の日常生活にも触れてみたいと思っている。

 

会議は、教育の場

 生産会議、品質会議、マネージャー会議が毎月会社で実施される主な会議である。マネージャー会議は、名前のとおり、マネージャーだけが出席する会議で毎週実施された。会議は、お互いの理解度を深めると同時に、社員みんなの意識、進むべき方向を合わせるものである。また、私にとっては、社員の教育の場でもあった。通常のエンジニアなども出席する生産会議や品質会議では、自分をPRする為マネージャーたちが発言したがったが、出来るだけ、若いエンジニアに発言を求めた。そして、私の考えも述べた。特に、品質会議は、事故から原因を推理する「読み」が勝負だったし、若い人の訓練には最適だった。

 

魂を入れる教育 

 赴任した当初、会社の型は出来上がっていたが、従業員の意識となると今一つと感じた。社内規格などの決まりは、前任者がしっかり指導し作ってくれ、立派に出来上がっており、また、内容についても、従業員に質問をすればしっかり答えられた。難しいISO等の審査は難なく通過したものの、社員の理解度、意識、真の心は今一つだと感じたのである。文章は出来ていたが、心が入っていなかったのである。大袈裟に言えば、これらに魂を入れ、それを会社の伝統にしてゆく事が、私の役目と狙いを定め、5年半を過ごした。従って、そうした会議は全て「社員教育の場」と位置付けた。性格的に出来ない面もあったが、出来るだけ厳しく社員には当った。フィリピン人らしいエピソードがあるので紹介したい。

 

総合不良率の計算

 事故率というか不良率の説明の場面で、若いエンジニアが説明にったった。A製品の不良が100個中5個、不良率5%。そしてB製品の不良が500個中10個で不良率2%。トータルの不良率は、(2+5)/2=3.5% ですと説明したのである。算数が不得手のフィリピン人らしいミスだ。何年もこうやって来たのだろうか。既に、会社が出来てから5年も経過している会社だ。マネージャー達もミスに気づかない。600個の母集団で16個の不良であるから、16/600=2.6%何がしの筈である。製品の数が2種類だから分かりやすいが、これが10種類というように多いとその平均を取ってしまうのは、意外とやるミスでもあり、分からないものだ。これなど、不良率の計算は出来ても、意味が分かっていないと言うことだ。

 

Free Lunch

 計算ではないが、こんなこともあった。不良率がそれまで余り振るわず、何とか低減出来ないかを皆と相談し、知恵を出し合っていた時だった。誰かが、もし来月現在3%の不良率を、社長の言う2%に達成出来たら、「Free Lunch」を出して貰えるか、と聞くのである。「Free Lunch」とは、名前の如く、正に、昼ご飯をタダで従業員にご馳走してくれるか、という提言である。これは、フィリピン人らしい茶目っけから出ている部分も多分に多いのだが、それと同時に食費を浮かしたい、良い食事を食べたいという欲求が、従業員の中にあるのだ。「Free Lunch」については、後で触れるので、ここでは話を先に進める。真面目に意味を解釈した私は、ここで説教を始めた。

 

馬の鼻先にニンジン

 会社の業績を良くし、皆の給与を上げ、皆の家族の生活を良くする事をしようとするのに、それを、自分の食欲を満足させる道具に使うとは何事か、とお説教をしたのである。ここまでの話は良かったが、先がいけなかった。更に、日本にはこういった言葉がある。「馬の鼻先にニンジンをぶら下げる」という言葉だ。これは、食べたい一心で前に進む馬を例にしての話だと。そこで、Free Lunchの話は止んだが、打合せの後、この言葉が反響を呼んでいる事を庶務マネージャーから聞かされた。「社長は、俺たちを馬だと思っている(言っている)」という類の話だ。勿論、言葉通りに、正しく私の主旨を理解してくれる従業員もいたが、この人たちは、社長は日本人だからあのような表現になったと、良心的に理解してくれた結果であって、この人たちと言えども、決して、好意的に理解しているものでは無かったのだ。そして、次回の会議では、この言い訳と、代償として「Free Lunch」を出すことにしたのであった。

              (次回に続く・・・)