ミドさんのブログ

日頃思いつくことを書いてます

世界おもしろ昔のはなし㉖

 今まで、フィリピンの会社内での出来事を色々綴ってきたが、この種の話に興味ない人もいると思う。次回から、フィリピンでの一般的な話について書いてみたいと思う。

 

 今回の話題は、一種の人心掌握対策であったが、失敗の部類に入る企画だった。近くの日系企業でやられていたので、当社もやってみようと始めた。

 

誕生会の習慣

 フィリピンの従業員の誕生日には、その誕生日を迎える従業員が、自分のお金で、キャンテーン(社内食堂)に頼んで、数十人の食事(と言っても焼きそばなど)を事務所に運んで貰い、それを事務所の皆で食べるという習慣があった。これは、従業員ばかりでなく、一般にフィリピン人がやっている事で、誕生日を迎えた人が、自分の費用で、日頃お世話になっている人に食事をご馳走するという習慣である。

 Aさんがやれば、Bさんもやる。1か月に2回も3回も「タダ昼食=Free Lunch」にありつくこともあった。事務所の従業員の場合、給与が高いから未だしも、作業者の人達は、大袈裟に言えば、死活問題である。手取りの給与が5000ペソといった給与しか貰わない従業員が、2000ペソ、3000ペソを出して、仲間の為に昼食を用意するのである。フィリピン人は、自尊心が高い。苦しくてもそれを見せないのが美徳である。健気にも、そういった従業員が、私たち日本人にも、紙皿に焼きそばなどを載せて、どうぞ食べて下さい、と持ってくるのである。

 

改善とクリスマス・ベィビー

 そこで一計を案じた。その月が誕生日になる従業員を集めて、誕生会と称し、会社で、祝ってあげることにしたのである。例えば、3月に8人いれば、その8人をキャンテーンの一角に特別席を設け、誕生会を実施したのである。日本人(一人・・順番制)、マネージャー(二人・・順番制)も出席し、その月誕生日を迎えた従業員と歓談しながら誕生を祝うのである。遠慮して、なかなか話さない従業員に、マネージャー(フィリピン人)が声をかけ、話すように仕向ける。そして、我々日本人もそれに合わせ、彼らと話をする、という趣向である。毎月20人弱はいた。正規社員対象(当然、事務所以外の現場作業員も含む)だからこの程度の人数である。不思議な事に気付いた。9月誕生者が異常に多いのである。通常の月の倍近くいた。皆さんもお気づきと思うが、クリスマスベイビーが多いということである。ベビーブームがフィリピンでは毎年あったのである。

 

失敗した誕生会計画

 さて、冒頭に、この計画は失敗の部類に入ると書いた。ここまで、読んで来て、なぜ失敗したか、皆さんは、お気付きだろうか。「何か変」と思いませんか? 思う人は、フィリピンでも十分生活能力のある人である。一方、思わない人は私と同じレベルだ。

 この計画は、マネージャーミーテングで、フィリピン人の皆さんと相談して決めた計画だった。私も、グッドアイデア、と思った。従業員の負担も少なくなるし、月に何度も誕生会のお祝いをしなくて済むしということである。所が、誕生会に出てくる従業員が、一人減り、二人減りし出したのである。

 

フィリピン人にとっての誕生会の意味

 結論から先に言おう。フィリピン人の従業員の心情を考えた計画ではなかったということである。日本人の独りよがりの計画だったのである。考えても見て欲しい。彼らがお金を出して、仲間にご馳走をするのである。我々が考えた計画は、誕生日を迎える人がご馳走になる、日本式の誕生会だったのである。そうやって考え出してみると、いかに従業員の事を考えない計画だったかが良く分かるのである。

 フィリピン人は、仲間意識が強い。従って、自分だけご馳走になっている事に気まずさがあった。それも、他の従業員が一杯いるキャンテーンの一角での誕生会である。従業員の目が気になるのだ。更に、フィリピン人は自尊心の強い国民である。(何の競争も謂われもなく)会社からご馳走になることも問題だし、英語が満足に話せない事が、誕生会で出席した人の面前でバレテしまう、などなど、彼らの自尊心を逆なでするようなことばかりの計画だったのだ。

 

対策

 結局は、誕生会を止め、誕生月には、給与に一定金額を上乗せする事を対策とした。

それぞれの国での風習・習慣というものは、その国の国民性に根差したものである。「ご馳走をする」ことに誇りを覚え、翌日から、家族が食べられない事態に陥ろうが、彼らにとっては、仲間にご馳走をし、楽しく1日を過ごすことが美徳なのである。それに気づかなかったし、それをフィリピン人のマネージャーたちも気付かなかったのである。いや、キッと気付いていた。でも、それを言い出さなかった。決して言い出せなかった訳ではなく、誕生会のメンバーに毎月自分たちも入っていた為、タダ飯が食べられることが魅力だった。マネージャーと言えども、このような考えをする人が多いのである。たった、80ペソの食事でも、フィリピン人マネージャーにとっては、日本人が日本でいう自分のお金を使わない「会食」より、もっと豪華なご馳走であったのだ。

 この時、フィリピン人の習慣や心情に根差した改革でなければ定着しない、という事を勉強させられた。

             (続く・・・)