ミドさんのブログ

日頃思いつくことを書いてます

世界おもしろ昔のはなし㉓

生産性の表の意味

 2階から1階事務室内に移させた私の席は、東側窓側の中央にあった。しかも入口に近い所で、従業員が事務室に入ってくるのが良く分かり、顧客が入ってきても誰が入って来たか分かる位置にあった。別に意識してそうした訳ではなく、赴任当初の工場長席がそこにあったので、これは良いと、そのままにしたのである。

 その席の後ろにこの事務棟建物の大きな柱があった。そこに、当月の生産量目標と実績をグラフにし張り出した。X軸に日付、Y軸に生産量を書きこみ、月末までの生産量、即ち30日に達成すべき生産量に向かって〇(ゼロ)から一直線に伸びる斜線を引き、毎日その表に累積生産量を書かせるのだ。  

 これは、色々な意味合いがあった。毎日の生産量の推移もさることながら生産効率が、一目で分かった。線が倒れれば効率が悪い、立ち上がれば効率が良いのである。当然ながら製品によって表は異なるので何枚にもなったが、言葉に表さないが各部門の密かな競争状態になった。それ以上に、その表を見に従業員が私の目の前に来るようになり、そして話す機会が増えていった。また、検査部門や生産管理部門の人間がこうした表に毎日記入するから、私の席に来ざるを得なくなる。そうして、また、この人たちとも会話が増えていった。日本人ならけむったがり、話すことを遠慮がちになるが、面白いことに、フィリピン人は、所謂、偉い人(と自分では思わないが)と話したくて、話したくて仕方ない国民性なのだ。そこをチョッと刺激することで、格段に、話すようになるのである。この考え方が、そのまま日本人には通用しないが、それぞれの国民性を刺激する術を知っていれば、出来ることなのである。

 

マネージャー会議

 英語が旨い訳ではないが、それでも、出来るだけ従業員とは話す事を心掛けた。社長は、権威があり、会社のお金ではあるがお金が自由になり、決断一つで、何でもできるのである。従って、従業員から良いアイデアを聞けば、それをすぐに実行することが出来た。それが、何千人もいる大きな会社とは自ずと違い、400人規模の会社は、こういった事が出来る、所謂、「適当な規模」の会社だったのである。

 マネージャー会議が毎週行われた。これは、前任者当時からあったものだが、月を追うごとに内容は違っていった。前社長は「神様」だったが、今度は「父親、兄貴」の私が着任したのである。これは、彼らにとっては、恐らく、御しやすいと思った事だろう。その典型が、給与交渉や退職交渉などで現れた。こんな時は、出来るだけ「お金」ではなく、「心」で解決するように心がけた。もし、お金だけで解決すれば、これは、Free Lunch の精神と変わらなくなってしまう、という考え方からだった。これらの話は、別章、別項で述べたいと思う。

 

話の脱線が心をつなぐ

 この会議は毎週の事だから、席上、そんなに話すことは無いのだが、余程特別の事がない限り必ず実施した。仕事の話もだが、いつも脱線した。そんな時、フィリピン人の考え方や反応の仕方を学び、日本人のものの考え方(今まで、親会社で教わった考え方)なども話すのである。「英語は正にお互いの意思を通じ合わせる道具」であるが、それが全てではなく、心や愛情が伝わり、それが重要と言うことが分かる道具でもあった。

 

従業員と話すことの意味

 マネージャーに一般従業員に聞かせたくない話もした。当初、その秘密が従業員にばれる事も多々あった。マネージャーが、従業員に得意顔で、「これ内緒の話なんだけど・・」と言いながら話す姿を想像した。日本でも良くある光景である。しかし、色々なことで、従業員と私との対話が増えるにつれて、従業員一人一人の気心を知るという以外に、このような暴露話が出来なくなるという効果もあった。誰がバラしたかすぐに分かってしまうからである。今まで、従業員と対話が出来ていないという自分に問題があったのである。以降、暴露話は無くなった。

 

 この場で色んな結論が出され、それを実行に移すのがマネージャーであり、その会議は、正に最高の議決機関だった。フィリピンのマネージャー達は、上司の言うことには、比較的良く従うものである。「どうも、社長がこう言うから」とか「マネージャー会議で決まったから」というように権威を笠に着て、説得していたマネージャーもいたようである。そんなことがあり、ある従業員から、「マネージャーは、私たちを見ていない」と言う不満が私の耳に入ってきた。

  (次回は・・・・、

   マネージャーに一般従業員の真意を分からせるのにどうしたか、を書く予定)